即興小説大会 大賞作品
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第一回 テーマ『梅雨、魚、死刑』 作者:北上さくら
――深海魚ってね、深海でしか生きられないの……
君は、そんな当たり前のことをよく言っていた。
深海。海。しかも深い海。太陽の光が届かないくらい、深くて暗い海の底。そんな場所でしか生きられないのは、とてもつらいことなんじゃないかと僕は思った。だけど、君はいつも笑っていた。深くて暗い海の底みたいに、厚い雲が空を覆う日が続いて――今でも僕は覚えている、五日連続で雨が降ったちょうど三日目だった。
なんで君が僕に話かけていたのかわからないし、周りの人も不思議がる。だけど、それ以上に、僕が君の話を聞いていたことの方が、みんな不思議がる。
周りのみんなには、僕が君のことを嫌っていたように見えていたらしい。僕が君に酷いことをしていたように見えていたらしい。でも、そんな風に思っていながら、みんな君を遠巻きに眺めているだけで、あからさまに距離を置いて、避けて……むしろ、みんなの方がひどくないかな? 君と僕はいつも一緒にいて、ケンチャンとタケゾウとユウヤの五人でどこででも遊んだ。言い方は悪いけど、君の友達は僕たち四人以外にいなかったと思う。みんな、君を気味悪がって、近づかなかったから。あんなに無視しておいて、今更君の味方みたいなことを言っているみんなの方が、よっぽど気持ち悪いけど。
僕たち四人はずっと君の面倒を見ていたんだ。そりゃあ、どんくさい君を叱ったり、お仕置きしたりすることはあったけど、それはしょうがないことでしょう? だって、君は口で言っただけじゃあ理解できないんだ。記憶力が悪いから、頭じゃなくて体で覚えさせてあげないとなにも出来ないんだ。
あの日も同じ。みんなで君にしつけをしていたら、君は急に動かなくなって……
みんなは、君のことを一人ぼっちで可哀想だったっていう。僕は、今が一人ぼっちで可哀想だと思う。僕はすぐにでも行くけど、僕と二人ボッチでもさみしいよね?
だから、あの三人も誘ってみるね。誰を最初に送ろうかな?
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