即興小説大会 大賞作品
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第二回 テーマ『神隠し、反面教師、山奥』 作者:中島九平
「わかった!」
彼女は彼の顔を見つめた。その瞳は明るく輝いている。
彼女は何がわかったのだろうか。
「つまりね、近くに誰もいないからって、そこに置いてあるものを無闇に食べちゃダメってことなのよ」
「ううむ」
彼はうなった。
「つまり、そのことを君に教えるために、君の両親は犠牲になったと?」
「そう!」
彼は腕を組んで、まじまじと彼女を見ている。
「ねえ君、我々はみんなで君を探していた。一生懸命、ずっとずっとね。だからあのトンネルから君が出てきたときは奇跡だとみんなで喜んだものさ。しかし君の両親は未だ見つかっていない。今どこにいるのか知らないのかい?」
「つまりね、近くに誰もいないからって、そこに置いてあるものを無闇に食べちゃダメってことなのよ」
彼女の顔はらんらんと輝いている。その笑顔はあどけない少女から大人の女性へと成長してしまったような寂しさを感じさせた。
他の男たちは、全員トンネルの向こうを捜索しに行った。彼は彼女と一緒に待機する役目だ。
「君の言うことお聞いてると、両親は、その、もう無事ではいないということかな」
「ううん!」
彼女は笑って首を振る。
「今頃は仲間たちと仲良く暮らしてるでしょうよ」
「そ、そうかい」
困った。いよいよもってよくわからない。
「他に覚えてることはないかい?」
「ない!」
彼女は混乱が激しいようだ。
仕方がないので、とりあえずは麓の町に連れ帰ることとしよう。彼は彼女の手を取った。
すると彼女の顔が、はっとしたようにまた輝く。
「思い出した!」
「えっ、何を?」
「あなたの名前!」
「あん?」
「コハク川! あなたの名前は、コハク川!」
「……」
「ニギハヤミコハクヌシ!」
彼女の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
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