即興小説大会 大賞作品
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第三回 テーマ『DVD、すみっコ、劇団ひとり』 作者:中島九平
暗い部屋の隅に体育座りをして、僕はじっとテレビの画面を凝視している。
画面の向こうで、水着姿の彼女がはしゃいでいる。笑顔がまぶしい。
彼女のことをかわいいと言っていたのは、仲間内では僕だけだった。あんなの全然かわいくないとバカにしていた奴らは、なにもわかっちゃいないのだ。
画面の向こうで、彼女の乳が揺れている。圧倒的な重量感をもって暴れている。
彼女のことで評価できるのは乳の大きさだけだと、仲間内では笑われていた。お前も乳に魅了されたのかと。
そうではない。たしかに乳は彼女を構成する重要なパーツの一つだが、それだけではダメなのだ。あの屈託のない笑顔。作為を感じさせない自然な表情こそが、凡百の女たちの中で燦然と輝いていた。
それなのに。
大粒の涙が一筋、つうと頬を伝う。
僕は彼女を取り戻さなければならない。
停止ボタンを押して、テレビを消す。重い腰を上げ、台所に向かう。棚の中から包丁を一本取り出して、反射する自分の顔と見つめ合った。
出かけようとして思いとどまり、パソコンを立ち上げた。適当な掲示板サイトを開く。少し考えて、カタカタとキーボードを打つ。いつも見ていたサイトだが、書き込むのは初めてだ。こういうのは短文で、なるべく劇的な文章にならないように。シンプルに。
『今から劇団ひとりを殺す』
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